歌人リレー企画「つがの木」〜学生短歌会編〜第6回 川上まなみさん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。

歌人リレー企画「つがの木」の学生短歌会編、第6回は川上まなみさんをお迎えします。

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こんにちは、川上まなみです。

(自己紹介、自選5首は一番最後に載せさせてください。)

 

私が紹介する歌人は、岡山大学短歌会の長谷川麟さんです。

彼は、私と同じ塔短歌会とuraにも所属しています。

ほとんど同じ所属(おかたんについては、彼はまだ所属していますが、私は卒業しています。でも活動を一緒にしていました)の彼を取り上げるのは、やや手前味噌感がありますが、でも彼の歌、本当にいいんです。

 

《川上まなみが選ぶ、長谷川麟の歌5首》

 

 

アルティメット大好き級の恋だからグラップラー刃牙全巻売った

踊り場に風が生まれる しまうまのかばんの人とよくすれ違う

オーバーフェンス/『岡大短歌6』

 

猫ひろう、ようにあたたかい朝だった 慣れた手つきで巻くたまごやき

しかくい光/『メランジェ』

 

三次会らしい いつも全部おんなじ お盆のウォーターボーイズみたいに

しんあいなるけいちゃん/ura vol.1

 

かぎりなくうすい陽炎 ひとりにはなれないだろう生きてるうちは

茄子/ura vol.3

 

美少女にずっとならない妹をそれでも駅まで送ったりする

/第4回大学短歌バトル2018 角川文化振興財団主催 題詠「少」

 

 

 

5首って書いておきながら、どうしても選べなくて6首になってしまいました、、、

 

1首目、主体の勢いに、笑ってしまう歌。

グラップラー刃牙』、漫画だそうで私は読んだことないですが、全42巻もあるそうです。それを一気に(きっとお金にしたかったからとか、収納スペースがないからとか、そういう理由ではなく、単なる恋したその衝動で)売ってしまう主体、なんということ!

面白いのは、切れのない歌で一気に読んでしまう(あるいは主体が言ったことを聞いている感覚)で、読者が置いてきぼりになってしまうこと。テンションのギャップに、ちょっと主体が心配になってきます。

でも、読者を置いてきぼりにしても、関係ない、恋に恋する、突き進むのみ、そんな一首。

 

3首目は、『メランジェ』という冊子から。

この冊子は、歌人・大森静佳さんが岡山市で開催しているワークショップの参加者の方の作品が載っています。

1首目と比べて、全然テンションが違いますが、この上の句の比喩がなんとも温かく心地いい。

猫のあたたかさだけでなく、猫を拾ってしまう主体の性格がすべて朝にかかってきて、ゆったりとした時間の流れる気持ちのいい朝を想像させます。下の句とのバランスも良い。

 

 

4首目はuraから。

お盆にウォーターボーイズが毎年再放送されるように、三次会へ行くメンバー、三次会のお店が決まっている。当たり前のように流れていくその場の空気が、3句切れ(しかもすべて一字空け)によって、表わされています。毎回同じだから、主体もただみんなの流れに合わせるんだろうな。ウォーターボーイズの水のイメージや、男の子の青春のイメージも、歌の内容に重なってきます。

 

 

6首目の歌は、角川の短歌バトルに出されて、物議(?)を呼んだ歌。

 

美少女にずっとならない妹をそれでも駅まで送ったりする

 

妹が成長するにつれて美少女になるなんて、そんな兄の勘違いもいいところです。

でもこの兄(主体)は、つい最近まで妹は美少女になると思っていた…そんな勘違いの気持ち悪さを書けていることがこの歌を良さだと思います。

そんなさ、なるわけないじゃん、急に綺麗にとかさ。

でも、妹に夢を抱いていた兄。この主体は、ある程度大きくなった妹が美少女にならないことに気づいて、ある種諦めを感じています。(この諦めも、自分の勘違いから来ていて、結局妹のせいじゃないのにね)

 

でも、自分の妹は、可愛い。諦めながらも、仕方なく、(いや、むしろ仕方ないという顔をしながら、頼まれることを嬉しく思っているのかもしれない)駅に送ってやる。そんな、ツンデレなような気持ちが「それでも」に出ていると思うんです。わざわざ、そのために車を出してやる、主体、なんだか可愛いような気がしてきませんか。私はばかだなぁって笑ってあげたくなる。

「それでも」「送ったり」「する」からは、兄のふてぶてしさというか、ちょっとショックな、でもしょうがなくなような、それでも妹は可愛いと思っているような、複雑な心境を読むことができる気がします。

 

彼の歌の魅力に、最後に、主体のキャラクター性を挙げておきます。

彼の歌に出てくる主体は、どんな連作を通しても、どんなテンションの違い(現に、私の挙げた歌の1首目と3首目には大きなテンションの違いがある)を持っていても、統一した主体を見ることができてなりません。それは、大人のような、でも子どもの一面を隠しきれていない、大人になりきれていないような主体で、私はそのキャラクターに惹かれる。

短歌を作る上で、私はどうしてももっと上の表現、もっと美しい言葉、良い短歌を書こうとしてしまう。すると、どうしても背伸びをして、主体のかっこつけた、大人びた一面を書くことが多くなる。

でもきっと彼の歌は、今できる精いっぱいの、今の等身大が描かれ、その誠実さが主体のキャラクターになって表れてくるのだと思う。

彼の主体はかっこ悪い。現に、猫を拾ってくるようなどうしようも無さ(やさしさとも言い換えはできるのだけれど)をイメージさせるし、漫画は勢いだけで売ってしまうし、妹は成長すれば美少女になると思っている。そのかっこ悪さに、呆れつつ、でも手を差し伸べてしまうような、そんな温かい気持ちにさせてくれる、なんて、ちょっと褒めすぎましたでしょうか。

 

ぜひ、今後の長谷川麟の作品にも、ご注目ください。

 

 

文責・川上まなみ

塔短歌会、ura所属。元岡山大学短歌会。

 

Twitter  @mayoi_122

ura twitter  @uta_tanka

4号、もうすぐ(全員の原稿がそろい次第、笑)出ます。長谷川麟さんの歌も読めます。

 

あと、吉岡太朗さん・染野太朗さんの短歌ユニット「太朗」のゲストに呼んでいただいて、『太朗二號』に連作を寄せています。

体験版から少しだけ読めますので、良かったら読んでください。もしいいなと思ったら買ってください。(笑)

https://docs.google.com/document/d/1lQeEMytc_cqAz48Z1OIShWt1j1yL8M2NciWEwiIWNe4/edit?fbclid=IwAR3sZQm5L9gY07dOx2-7iv5QyXWixPhN6ai1V3iUdA-e01-Ch9RZbLWG0uo

 

 

自選五首

あなたにはなれないことの静けさにうすむらさきの切手を貼りぬ

傘を重たく/ネットプリントelse

 

蒼井優一本目は死に二本目は生き続け死んだほうを見返す

死んだほう/ネットプリントelse

 

噴水が高さを変えて動いててさみしさが君に会いたがってる

会いたがる/ura vol.1

 

手を舟の形のように百日紅の落ちているのを静寂しじまへはこぶ

diary in the sea city/ura vol.3

 

あなたの選んだ映画だけ見て春の日の冷たい畳の上に寝転ぶ

間取り短歌「どこかで」/『太朗弐號』

 

 

ありがとうございました。

 

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ありがとうございました。

更新予定

5月29日(水) ネット歌人編 笹川諒さん

6月5日(水) 学生短歌会編 長谷川麟さん

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