歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第14回 はだしさん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。

 

歌人リレー企画「つがの木」ネット歌人編です。14回目の今回ははだしさんにご寄稿いただきました。

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こんにちは。短歌結社「なんたる星」所属のはだしといいます。よろしくお願いします。主な活動場所は、Twitter (@hadashinomanmay) や「なんたる星」、うたの日などです。あまり外に出ないので、ネット歌人度は高いほうかもしれません。大喜利好き。

 

ここからは宣伝になりますが、この度、所属する「なんたる星」に新メンバーとして谷川電話さんが加入することになりました。発表媒体についても、パブーの閉鎖に伴い7月号からnoteの方へ移行します。今後の詳細については随時公式アカウントで情報を出していきますので、そちらもフォローよろしくお願いします。

 

「なんたる星」Twitter公式アカウント

@nantaruhoshi

 

「なんたる星」note

https://note.mu/nantaruhoshi

 

 

 

自薦5首

 

忍者からもらった手裏剣クッキーがおいしいったらおいしいでやんす

「おれ、ない」(なんたる星、2014年10月号)

 

淡水魚としかしゃべってない 日本、けっこう広いとこなのになあ

「年末」(なんたる星、2018年1月号)

 

カップラーメンの入った引出しが開かない、引っかかってる オワタ

「るるるる」(なんたる星、2018年11月号)

 

お茶漬けがかわいそう無理させられてあんなに氷とか入れられて

(うたの日企画 短杯2015 題『夏』)

 

あたらしい手帳があたらしいままなのみせたら腰を抜かすだろうな

「アロワナ」(ネットプリント「トライアングル」シーズン2最終回)

 

 

 

わたしが紹介するのはやじこさんです。

主にTwitter(@yajco)で短歌を発表されている方です。また、うたらばやうたつかい、食器と食パンとペンなど、ネット発の企画にも多数参加されています。noteでは、過去の短歌をまとめた連作も公開されているようです。ちなみにアイコンはオリガミガリオという名前だそうです。かわいい。

 

 

はだしが選ぶやじこさんの5首

 

うしろから自転車のベル鳴らせずに 通りたいなぁって立てた音

「肝心なことは」(note、2014年7月)

 

蜂蜜をかけたらはちみつパンになる お前も好きに生きたらいいさ

「オレンジの遠心力」(note、2015年5月)

 

世界一孤独な鯨の周波数51.75Hz

「世界一孤独なくじら」(note、2015年3月)

 

私にも社団法人日本鳩レース協会にも吠える犬

「毒のない名刺交換」(note、2015年11月)

 

乗っているだけの電車で側道を走る車を追い越している

「負けないまぶた」(note、2017年3月)

 

 

 

うしろから自転車のベル鳴らせずに 通りたいなぁって立てた音

 

目の前に進行の妨げになる誰かがいて、邪魔だなとは思いつつもベルを鳴らせない。だからもちろん声もかけられない。そこで考えちゃう。たぶん瞬間的に(ベル鳴らされたら迷惑じゃないか)と(通りたい)という二つの間での葛藤がうまれていて。で、どうするかっていうと、音をたてるんですよね。着地点として、そこなの?っていうささやかな抵抗に出る主体がすごく好きです。面白いなぁって。きっとベルよりは弱いであろうその音が、この主体のキャラクターをわからせることに繋がっているのも巧いです。「通りたいなぁ」って言い方も実感がこもっていて、この歌の良さを高めていると思います。

 

 

 

蜂蜜をかけたらはちみつパンになる お前も好きに生きたらいいさ

 

自身にでも、相手がいてもいいんですけど、なにかに縛られている人をそこから解き放ってくれるような優しさや温かさを感じて、いいなってなりました。「蜂蜜をかけたらはちみつパンになる」って当たり前のことなのに、この一首の中だとその事実が頼もしく感じられて。下句のありふれたフレーズを、そうだよなって思わせてくれる力がある。とろりとした蜂蜜がパンへかけられる時のゆったりとした速さだとか、開かれた「はちみつ」からイメージされる優しい甘みが、一首全体へいい感じに行き渡っているからなのかなって思いました。

 

 

 

世界一孤独な鯨の周波数51.75Hz

 

この鯨はどうやら実在するらしくて、1980年代から各地の海で鳴く声が観測されているそうです。でも多くの鯨がもつ周波数とズレがある為に、その声が届くことはない、という。孤独っすね。そのエピソードを、いまの私と重ね合わせたり、鯨の気持ちになって詠んだりしなかった事が良さなのかなって。見えないけど、後ろにいるはずの主体が語り手に徹したおかげで、読み手はこの歌の、というかこのエピソードのもつ悲しさやその余韻をそのまま味わうことができる。事実を書いているだけだけど、たぶん主体と読み手の間での気持ちの共有はできている気がするんですよね。あくまでも主役は孤独な鯨で、主体もまた読み手のひとりとして存在するような。主体の位置がちょっと不思議で、でも言いたいことはすごく伝わってくる。いい歌です。

 

 

 

私にも社団法人日本鳩レース協会にも吠える犬

 

「社団法人日本鳩レース協会」って実在するんでしょうか。それを抜いたら「私に吠える犬」しか残らないの、面白くないですか?状況としては、たぶん社団法人日本鳩レース協会の辺りを通りかかったら犬に吠えられた、ってだけで。でもこういう書き方で出されると、この犬は協会にもなんらかの不満あるんじゃないか?とか、鳩バサバサうるせえなと考えているのでは?と思えてくる。普段の生活に埋もれてしまう本当に些細な一瞬を、発想の力で面白くみせていて、大喜利好きとしては見逃せない一首でした。そもそも主体が犬に吠えられている所もちょっと面白いです。その主体がどういう人なのかが垣間見えて。

 

 

 

乗っているだけの電車で側道を走る車を追い越している

 

自分は電車に乗っていて、それが「車を追い越して」しまった。相手は自ら車を運転しているのに、何もしていない自分の方が先へ進もうとしている、という風に読みました。日常のほんのちいさな罪悪感が歌われていて。でも電車は止まらない。自分の力ではどうにもできないということが、この罪悪感を際立たせているように思います。他の歌でもそうですが、ちいさな事を気にしてしまう主体だからこそ、普通に生きていたら見逃してしまいがちなモノを見つけてしまうんだろうなって。やじこさんの短歌の特徴の一つはそこなのではと思います。ささやかなものの代弁者、みたいな。

 

 

 

伝わっているでしょうか。評を書いてみて、ここがいいんだ!と思う部分を言葉にするのって難しいな、と改めて思いました。それからもう一つ。自分はおもしろさや微妙なニュアンス、で勝負しているような歌を選びやすいのでこうなりましたが、やじこさんはポップで素敵な歌も詠まれる方なので、よければnoteでほかの作品も読んでみてください。もしかしたら自分が選ばなかった中に、だれかに刺さる一首があるかもしれないので。

 

やじこさんのnote 

https://note.mu/yajco

 

以上です、ありがとうございました。

 

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ありがとうございました。

更新予定

7月31日(水) 学生短歌会編 岩瀬花恵さん

8月7日(水) ネット歌人編 やじこさん

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