歌人リレー企画「つがの木」〜学生短歌会編〜第8回 草間凡平さん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。

歌人リレー企画「つがの木」の学生短歌会編、第8回は草間凡平さんをお迎えします。

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どうもこんにちは。立命館大学短歌会4回生の草間凡平です。インターネットでこんな事書くのはどう考えてもまずいんですが、本名です。

1997年生まれの北海道出身、高校2年生の頃に短歌をはじめました。最近は就活にかこつけて、かき氷やらパンケーキやらパフェやらの甘味をひとりで摂取しています。かなしいですね。

Twitter : @heibomobieh

 

自選5首

イマジナリーガールフレンドはるのゆき 雪が降ってる時点で冬じゃん

ネットプリント毎月歌壇2017年7月号

 

スワンボートめっちゃいいじゃん諸々のあをにも染まず君とただよう

歌会たかまがはら 2017年12月号

 

たてがみのような寝ぐせをたなびかせチャイナマフィアに紹興酒チョップ

平成28年度 短歌道場in 古今伝授の里

 

白身魚くずれやすくてわたくしは電信柱に寄りかかりがち

リフレインのなかにrainの息づかい文明すべてがみずうみになる

「pluvo tago」『立命短歌 第五号』

 

今回僕がご紹介させていただくのは、早稲田大学短歌会の雪吉千春さんです。

 

草間が選ぶ雪吉千春さんの5首

髙【はしごだか】だったんだねと呟けば「そう」と日誌の文字は寂しげ

 (編集注:【はしごだか】はルビです)

桜だと思ってくれて構わない君の背中に小指を当てる

「桜の小指」『歌壇』2018年2月号

 

のど飴は知らないうちに舐めおわりそういえば縁切ったんだった

「夢、いつまでも夢だった」文芸同人誌『懐露』vol.1

 

散骨を話すふたりが夢みたいジャスミンティーがまずくて素敵

引用符ポーズかわいい夏の果てきみだけの〝死〟がそこに生まれて

「ほころび」『早稲田短歌』48号

 

ほんとうに琴線に触れる歌が多くて、5首選ぶ際に福本伸行作品みたいな脂汗が出ました。

 

髙【はしごだか】だったんだねと呟けば「そう」と日誌の文字は寂しげ

 

一首目。とても静かな歌ですよね。卒業か、転校か、あるいは亡くなったのか、おそらくもう二度と会うことはないだろうクラスメイトが書いた学級日誌をふとしたタイミングで読み返した際の歌なのかな、と思いました。主体からすれば、そしてきっと大多数のクラスメイトからすれば「はしごだかの子」はクラスメイトの一員でしかなかった感じがしますが、「はしごだかの子」からすれば後悔の残る、また違った関係もありえたかもしれない学校生活だったことが末尾の「寂しげ」から伝わってきます。

この歌の静まり返った教室を思い起こさせる感じは、韻律からのイメージもあるのだろう、と読んでいて気づきました。初句の「髙はしごだか」の「か」のk音の、句の切れ目以上のばちっとした切れ、二句目の「だったんだね」の口を大きく使うゆっくりした感じから、下句の入りの「そう」の不安定な感じ、そしてスッと通り過ぎていく。主体の不意な感情のざわめきと、日誌の文字たちの諦念が、文面はもちろん、韻律の面からも伝わってきてうまいなあ、と思いました。

 

桜だと思ってくれて構わない君の背中に小指を当てる

 

二首目。いい歌ですよねえ。僕なんかが評をするのが野暮なんじゃないかとも思うのですが、少しだけ。

雪吉さんの歌を読んでいて思ったのは、大衆的価値観から見た「正解」から少し逸れてしまったモノや人に対する愛を感じる、ということです。その「逸れ」は主体にも作用していて、自虐的な一面を見せながらも、どこかその弱さを誇りとしてもっている、そんな歌がけっこう見られたような気がしました。

この歌も、絶対に気づかれた方がいいにきまっているのに、気恥ずかしさや自信のなさから「桜だと思ってくれて構わない」と主体は謙遜しています。が、この謙遜の具合が丁度いいために、健気な祈りとなって、主体から見た「桜の道と、君と私しか存在しない空間」に読者もいつの間にか引きずり込まれている、というふうに感じました。

 

のど飴は知らないうちに舐めおわりそういえば縁切ったんだった

 

三首目。味覚と思考のリンクが素晴らしい作品。舐めはじめはぬらっとした存在感のあるのど飴が、いつの間にか後味だけを口内に残して消えている。その時間的飛躍と、のど飴の終わりから人間関係の終わりの話題に内容が飛躍する感じ、のど飴の清涼感と主体のドライさが完全に響きあって、上下でぐるっと話題が転換するにも関わらず、他の何ものでも代用できなかっただろうな、という軸の強さがあります。

下句、強いですねぇ。誰との話なのか、どうなってそうなったのか、すべては主体(とその相手)しか知らず、読者に伝わるのは、主体がそのことについて、舌の上ののど飴の後味ほどにしか感情を割り振っていないということだけ。「縁切った」の撥音+助詞抜きのスピード感、「切ったんだった」の全自動で事が流れていくようなリズムなど、韻律も面白いです。

 

散骨を話すふたりが夢みたいジャスミンティーがまずくて素敵

 

四首目。「わかる。」これも「わかる。」なんですよ。このへんの言葉選びであったり、場面選びであったりというのは完全に雪吉さんの嗅覚ですね。尋常じゃないリアリティがあります。自分のことかとすら思った。

若さゆえに「死」すらも無邪気に話せてしまう、「エモ」にできてしまうふたりのまぶしさに、くらくらと眩暈のような白昼夢のような、デジャヴのような感覚をおぼえ、思わずジャスミンティーを手に取ったらまずくて「現実」としてそこにあった、という歌というふうに読みました。

「散骨の話をするふたり」というモチーフや、ジャスミンティーに対する「まずくて素敵」はさっきの「逸れ」への愛に似たものを感じます。特に「まずくて素敵」はダブルミーニングだと思うんですよね。まずいということで現実に引き戻されたことを皮肉ってる感じと、「まずい」ということがアイデンティティとなってそこに確かに存在していること、なんなら後に振り返ったときに「ジャスミンティーがまずかった」という思い出の方が勝るかもしれないということに対する純粋な尊敬の念と。好きな歌です。

 

引用符ポーズかわいい夏の果てきみだけの〝死〟がそこに生まれて

 

最後、五首目です。僕はこれを最初、合宿の詠草一覧で見たんですが、「うわっ」って声に出しちゃいました。完全にエネルギーを発してましたね。今回、雪吉さんに声をかけさせていただいたのもこの歌がきっかけです。

いや、若え~~~! 若さのエネルギーがビカビカに光ってますよ。よく高校生とかに「高校生らしい若い作品が読みたい」とか言ってやれ夏だ、やれ恋だ、って歌を持ち上げるおじさんがいたりいなかったりしますが、この歌はそれら以上に今しか詠めない、エネルギーを持った歌だと思わされます。ほんとうに馬鹿にしてるとかでは(当然ですが)なくて、「若さとは」というものの描写としてのポップさとほの暗さのバランス、そしてやはりエネルギーを強く感じるいい歌だと思います。

まずもって「引用符ポーズ」です。ダブルピースして両の人差し指と中指をくいっくいっと曲げる動作、なんならちょっと猫背、みたいな動作を僕は想像したんですが、何がすごいって「引用符ポーズ」もとい「エアクオート」を知らない人でも、おそらくこれに近い動作には行きつくと思うんですよね。僕は割と歌の景がぱっと浮かべられる歌が好きなので、もうこの時点でだいぶやられていました。

で、このまぬけでかわいい引用符ポーズを「君」がしているわけですが、それをしているのは夏の果て、夏の終わり間際であると。夏の終わりとはすなわち、無邪気でいられる、「若い時期」の終焉の比喩として僕は読みました。先ほどの「散骨」は肉体としての死の話で、こちらの「死」もとい〝死〟は精神としての死。なので「散骨の話」よりも切羽詰まっていて、「君」のする引用符ポーズの手と手の間の空間にまで迫ってきている。そして「君」がその人生の夏の終わりを自覚し始めた、という歌なのかな、というふうに読んでいました。

「引用符ポーズ」や〝死〟といった、印象的なモチーフでしっかりとその存在感を放ちつつもしっかりと、若さゆえに、その若さの『死』に対して敏感にならざるをえない残酷さを切り取った、いい歌だと思います。

 

……とまあ、こんな感じで、雪吉千春さんの5首を紹介させていただきました。僕にもっともっと文章力や評の力があれば、と力不足をビシバシ感じているのですが、雪吉さんの魅力が少しでも伝わってくれていれば幸いです。

ありがとうございました。

 

草間凡平

 

 

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ありがとうございました。

更新予定

6月26日(水) ネット歌人編 瀬口真司さん

7月3日(水) 学生短歌会編 雪吉千春さん

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