歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第15回 やじこさん
こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。
歌人リレー企画「つがの木」ネット歌人編です。15回目の今回はやじこさんにご寄稿いただきました。
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自己紹介
こんにちは、やじこと申します。
おもにTwitterにいます。(@yajco)
ご紹介いただいたはだしさんから、
「ちいさな事を気にしてしまう主体だからこそ、
普通に生きていたら見逃してしまいがちなモノを
見つけてしまうんだろうなって。」
と評していただきました。
ありがたい。
しかし、実際のぼくは、
かなり大雑把であいまいな性格であります。
いやでもだから、ほら、
短歌に惹かれるのかなと思いましたよ。
日々の何気ない感情の動き、
発見や、おどろきや、ゆらめきや、
ときめきや、さびしさや、切なさは、
何もしなければすぐに忘れてしまいます。
ほんと忘れちゃう。
そこで立ち止まって、
何が起こっているかをしっかりと見据えて、
その意味を受け止める。感じる。
それを正しい形で、結晶化する。書き記す。
それが短歌を詠むということなのではないか。
それがどんなに目の前の現実と乖離した、
不可思議な表現であったとしても、
ほんとうは、そっちのほうが、
だんぜん「正しい」世界なんじゃないか。
そういう短歌に出会えたとき、
そういう短歌を作れた(と思った)とき、
なんだか救われた気持ちになります。
短歌って、いいわぁ。
短歌を作り始めたのは2014年ごろのことで、
そこから2年ほどコンスタントに作り続けていました。
今思えば、あの頃のぼくには、
短歌を作るということが、
切実さを持って必要だったんだと思う。
現実の世界が、ちょっとずれて見えていた。
ほんとうはそうじゃない気がしていた。
人にはいろんな時期があると思うけれど、
短歌に出会えたことも、
あの頃よく作ったことも大切なことだった。
人には「歌」が必要なときがあるのでしょう。
自選5首
背中からぱっくり割れて虹色の羽化がはじまる気配の猫背
(歌人のふんどし 「くるぶしの国」)
ベランダに落ちた星座の配線について宇宙の窓口に聞く
(じゃこさんのフリーペーパー『バッテラ』04)
食欲は連日連夜押しかけて生きよ生きよと僕らを脅す
(Twitter)
さみしい、と冬は泣いたりしませんがカーテンの裏にこぼれた結露
(うたらば2017年1月)
蜂蜜をかけたらはちみつパンになる お前も好きに生きたらいいさ
(Twitter)
紹介させていただくのは、高松紗都子さんです。
ツイッターのアカウントは@satocott 。
ブログ「羽うさぎのうた」http://usacoco.cocolog-nifty.com/blog/
塔短歌会に所属されていますが、
ネット上でも活躍されています。
ぼくが短歌を作り始めた頃からそこにいて、
憧れた歌人のひとりでした。
紗都子さんの歌、好きだなぁ。
普段の生活のなかで、世界が揺れる一瞬を、
ちゃんと見ている。
あわてずに見ている。
それが何なのかを落ち着いてとらえて、
正しく表現しようとしている。
そのたたずまいが美しい。
平易な言葉を使いながら、
紗都子さんにしかできない言葉で表現でされる
世界がすばらしい。
そんなふうに世界が見えたらよいのに、
と、憧れを持って眺めています。
やじこが選ぶ高松紗都子さんの5首
かなしみに加速がつけばスカートの裾をほつれる糸のいきおい
(塔2014年5月号)
この歌はほんとうに素晴らしい。好き。
なぜ? がうまく表現できません。
かなしみの歌なのに、ドライで、速くて、
ああああああという感じ。
ああああああ。
一時期、なんでこんなにいいんだろうと、
構造を分析したことがあります。
ふだんそんなことしないんですが。
同じような語順で言葉を並べてみたら
同じように魅力的に見えるんじゃないかと、
仮設をたてて。
いや、そんなに簡単なことじゃあなかった。
くりかえすことのしあわせ何度でもホットケーキは円形になる
(塔2013年10月号)
これまた、好みのタイプの歌でして。
何度でも、っていいですよね。
しあわせが何度でも。
たしかにしあわせは、
ホットケーキのかたちをしているだろう。
ねぇ。垂らせば、勝手に、丸くなるんだぜ。
ホットケーキたべたい。
ゆり、すみれ、さくら、ひまわり幼子の日々がいつしか花園になる
(うたらば2016年8月)
そうだよなぁ。幼稚園のクラスの名前は、
たいてい花の名前だったり動物の名前だったり。
その時はあまり意識しなくても、
時間がたち、遠景としてのその時代は
まるでお花畑や動物園だ。
心をキュッと掴まれるような、
しかし、しあわせな歌が好きです。
戦わぬ属性なのだと言いきかせ虚心をたもつ真夜中もある
(うたらば2013年10月)
そう。生きていくことは、実際には単純ではない。
しかしそれでも、という覚悟がいい。
投げやりじゃない、んだよなぁ。
斜に構えてもいない。
そんなものはないと、無視するわけでもない。
結果として逃げてしまうかもしれない。
避けられるなら避けるだろう。
でも立ち止まって、ちゃんと見る。
わたしはわたしとして生きる。かっこいい。
説き伏せる言葉の圧を避けるとき子の背はすこし伸びるのだろう
(うたらば2014年6月)
先ほどの歌と、同じような覚悟。
生きていく上での覚悟。
そうだね、そうやって
人は成長していくんだろう。
歯向かいたいわけじゃなくても、
人と人である限りズレはかならず存在する。
僕は私は違うと、目線を少しずらしたとき、
人はちょっと大人になる。
道徳としてでもなく、How toでもなく、
詩として、生き方として、
この覚悟を伝えられたらいいね。
こどもたちに。
好きになる速度角度が一致してただ一点で出会ったふたり
(うたらば2013年4月)
最後は愛の歌を。
良く思います、なんてこの世界は
偶然でできているんだろうと。
歯を磨くタイミングも、
通学路のちょっとしたつまずきも、
きまぐれなおはようも、
ぜんぶがぜんぶあって、積み重なって、
降り積もって、今がある。
じゃあその全てが、ただただ偶然なのか。
愛は偶然なのか。
いや、
好きって気持ちの「速度角度」がその瞬間、
天文学的確率で一致したのだ。
人はそれを奇跡と呼ぶ。
以上でした。あれ、6首あるじゃん。
まぁ、ちょっと大目にみておくれよ。
みんないい歌なんだもの。
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ありがとうございました。
更新予定
8月14日(水) 学生短歌会編 乾遥香さん
9月4日(水) ネット歌人編 紗都子さん
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