歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第16回 高松紗都子さん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。

 

歌人リレー企画「つがの木」ネット歌人編です。16回目の今回は高松紗都子さんにご寄稿いただきました。

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こんにちは。塔短歌会の高松紗都子です。主な活動場所は結社の湘南歌会。好きな歌人は杉﨑恒夫さんです。

2009年にふとしたきっかけで新聞歌壇を読み、自分もつくってみたい!と思ったのが作歌のはじまりでした。(あれからもう10年…)

そしてNHK短歌、夜はぷちぷちケータイ短歌、笹短歌ドットコム等に投稿するようになり、うたらば、うたつかい等にも参加し、多くの人と知り合うことができました。2010年に塔に入会し、現在に至っています。

最近では短歌投稿も短歌イベントに行くことも殆どなく、わりと狭い範囲で活動しています。諸事情によるものですが、今後も自分なりのペースで歌を続けていけたら…と思っています。

 

自選5首

誰にでもやさしい人のやさしさが深まる秋の木の実を冷やす

(塔2016年1月号)

トリノ駅を「鳥の駅」と聞く耳を持つ それをひとつの幸せとする

(塔2017年8月号)

躍らせてほしい日もある踊りたい日もある風が秋に変わった

(塔2018年1月号)

待つことの寂しさを言う日盛りに出てゆくときのまなざしをして

(塔2018年5月号)

鳥を飼い犬を飼う日々少女期は半透明の付箋のそよぎ

(塔2019年3月号)

あまり自選を考えたことがないので最近の歌の中から選んでみました。選ぶ度に違う歌になるような気もしますが…。

 

 

さて、今回私が紹介するのは短歌人会の姉野もねさん(@anenomone)です。結社で大いに活躍されているもねさんなので、ご存知の方も多いとは思うのですが、紹介したい好きな歌があるので今回、推させていただくことにしました。よろしくお願いします!

 

 

高松紗都子が選ぶ姉野もねさんの5首

もう君を浮かれさせたりできなくてキリマンジャロを丁寧に挽く

(NHK短歌2014年入選歌)

1センチ角に刻んだあの夏をぽろぽろこぼしながら生きてる

(うたの日2015年/CDTNK夏フェス2018)

信号の緑がとても鮮やかでわたしはたぶん泣きたいのだろう

(短歌de胸キュン2016年入選歌)

だんだんと愛着が湧く神様にお借りしているこの着ぐるみに

(歌会たかまがはら2016年採用歌)

走馬灯がきっと短い終わること始めることが下手なわたしは

(短歌人2019年3月号)

 

 

もう君を浮かれさせたりできなくてキリマンジャロを丁寧に挽く

 

ふたりが浮きたつような思いで向き合う時期は、やがて過ぎてゆくものなのでしょう。その後は淡々とした日常が続き、例えば、ある時点で結婚というかたちに変わることも。

共に過ごす月日のなかで、もはや相手を浮かれさせられないと気づいてしまうこと。それは少し寂しいことかもしれないけれど、この人は関係性の変化を自覚して受け止め、その先を生きていこうとしています。

キリマンジャロを丁寧に挽く」という行為には誠実さがあらわれていて、日々をきちんと生きている感じがします。これは、あきらめとは違うんじゃないかな…未来へ向かう意思があって。

広がるコーヒーの香りとほろ苦さが良いですね。キリマンジャロという銘柄の山の名前にも人生を思わせるものがあります。

この歌を初めて見たとき、じんわりと心に沁みてくるものがありました。とても好きな歌で、今あらためて読んでも、ちょっとウルっとしてしまいます。

 

 

1センチ角に刻んだあの夏をぽろぽろこぼしながら生きてる

 

「あの夏」は、思い出に残るたいせつな夏なのでしょう。それを刻んでとっておいて、糧とするようにして今を生きているのでしょうか。

或いは何か料理をしている場面を重ね合わせているのかもしれません。野菜や果物を細かく刻むことが、どこかで夏の思い出に結びついているのかも。例えば、キャンプとか。

1センチ角に刻まれた夏はキラキラしていそうです。指先からぽろぽろこぼれても、きっとまぶしくきらめくのでしょう。

なつかしい輝きを、少しずつ、少しずつ手放してゆくのですね。「生きてる」が小さな呟きのように聞こえてきて、せつない気持ちにさせられます。

 

 

信号の緑がとても鮮やかでわたしはたぶん泣きたいのだろう

 

信号の色の鮮やかさから自分の悲しみに思い至るという繊細な感覚に心をひかれました。

「泣きたいのだろう」と言いながら自分のことを見ている、もうひとりの自分がいるのですね。ストレートに「泣きたい」というより、この客観視が悲しみをより際立たせていると思います。ちょっと放心しているような感じ。

もしかしたら、信号の眩しさに瞳が涙を感じて、深い心情を呼び起こしたのかもしれません。青信号は進むことを意味していますが、何かにとらわれている心の澱みがあるのでしょう。

 

 

だんだんと愛着が湧く神様にお借りしているこの着ぐるみに

 

この世に生きる自分を仮初めのものとしてとらえ、今の姿を着ぐるみに例えています。着ぐるみというからには、どこかしっくりこない違和感や生きづらさがあったのでしょう。

でも、その姿に愛着が湧いてきたのだといいます。それは自分を認め、肯定できるようになったということかもしれません。

いつか地上の世界を離れる日まで、我が身を大切にしようという真摯な思いが伝わってきます。着ぐるみのやわらかさ、温かさまで感じられるようです。

 

 

走馬灯がきっと短い終わること始めることが下手なわたしは

 

何かを終えるのも始めるのも上手くできないという「わたし」。それは慎重だったり臆病だったり不器用だったりすることかもしれません。

そんな自分のあり方を走馬灯に結びつけていることに驚きます。これは、おそらく人生を振り返るときに見るという走馬灯ですね。

あまり多くのことに手を出してこなかったゆえの短さ。でも、そのような生き方には思慮深さや落ち着き、豊かさがあるはずです。

熟慮して始めたことを大切に続けて、きっと簡単にはやめない人なのでしょう。そんなことを考えさせてくれる味わい深い歌だと思います。

 

 

もねさんの歌には内面を穏やかに見つめるまなざしがあります。自身の弱さをも受け止めて、真摯に向き合っている人の姿が見えるようです。

そして、感情に流されない表現が、歌の輪郭をくっきりとさせています。それが表面的に調えたものではない、心の奥底を丁寧に掬った言葉だからこそ、読む人の心に響くのだと思います。なんていうか、ぐっと胸に来るんです…。

 

余談ですが、何年か前の短歌イベントの後に、もねさんとふたり駅を探して夜の街をさまよったことがありました。今回の原稿を書きながら、その幻のような出来事を懐かしく思い出しました。

 

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ありがとうございました。

歌人リレー企画「つがの木」は、ネット歌人編、学生短歌会編ともに一旦休止となります。今までご寄稿いただいた歌人のみなさんに心よりお礼申し上げます。たくさんの応援ありがとうございました!

今後の情報はTwitter@sanbashi_tankaをご確認ください。

 

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