歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜 第2回 のつちえこさん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。前回はたくさんのアクセスをありがとうございました。

歌人紹介リレー企画「つがの木」、ネット歌人編は今回で2回目になります。

今日はのつちえこさんにおすすめ歌人をご紹介いただきます。

まずは自己紹介からお願いいたします。

 

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自己紹介

のつちえこです。「かりん」こと歌林の会に所属しています。

ふだんは、超結社歌会「福岡歌会(仮)」や、スタンド歌会(注)形式の「ajiro歌会」に参加。また「Discord歌会」というオンライン歌会を月一で主催しており、随時参加・見学募集中です。今年は初めてネットプリントを企画配信しました。〈だから、楽しいことやっていきましょう〉をモットーに活動中です。

(注)スタンド歌会とは、自作ではなく他の作者の歌を選んで、通常の歌会のように鑑賞する歌会形式の通称です。

 

自選5首

簡単に許し合わずに放課後の廊下潔くまっすぐ光る

(「記憶」『あみもの11号』)

そうねずっとくすぐったくてホットケーキ分かち合うまで日曜は照る

(「雪の予報は」『Re:Re短歌』)

ポケットはどんぐりだらけなにひとつ盗みを知らぬ子らが笑うよ

(『かりん2019.1』)

ブロッコリーが季節と知って頼まないブロッコリーは森の凝縮

(「開くよ」『だざいふ吟行ネプリ』)

This is ふるさと。納税されて元気になる。そしてわれらにすこぶる元気

(「This is ヤクルト2.0」『長子ネプリ「優先」』)

 

私からは、菊竹胡乃美さんを紹介します。

学生短歌会(九大短歌会)出身の彼女は、作品(短歌はもちろん、評やエッセイ、詩などジャンルも多岐にわたります)発表の場を会誌だけでなく、自身のHPやツイッターで活発に発信しています。菊竹さんは、得意のデザインを生かした、思わず手に取って読んでみたくなる制作物がたくさんありますが、なかでもイラストなどを用いた視覚的な一首評は彼女オリジナルのセンス光る取り組みです。

 

のつちえこが選ぶ菊竹胡乃美の5首

 

全人類にチューしたらきっと好きになるあのクソ上司にもジャンプしてチュー

「生きろボキャブラリー」『九大短歌 第五号』

 

ただいマンモグラフィーと言って元気よく母が開けるドアから光

「生きろボキャブラリー」『九大短歌 第七号』

 

クズはクズでも俺は星屑呼吸するたびにきらきら毛穴のすべて

ヴィレッジヴァンガードで待ってる」『トライアングル(第3回)』

 

食べられないたらこはカピてくるように使わんたらこくちびるもカピ

おめでとうと言わねばならぬこの口でこのたらこくちびるで言わねばならぬ

「Ms.たらこくちびる」『九大短歌 第八号』

 

菊竹作品は、なんといっても「清々しさ」が魅力。勢いを感じる独自の語彙(歌に組み込みづらい強めの単語)とポップな口語の文体でいながら、衒いがありません。ここでいう衒い、というのは表現をひねろうと作品読解を難しくする文法上の負荷のようなもので、歌を読解する上でのブレーキにもなりうるものですが、意味の上での屈折は比較的少ないため、読者のほうへ飛び込んでくる印象があります。

また一首目や三首目のような「クソ上司」や「クズ」にみられるような、一般的に嫌悪されるような対象についても、あえて積極的に肯定し、攻略し、自身にとりこんでいきます。全力で、ポーズではない態度で、主体は読者の前に現れるのです。

明るくポップな一面が目立つ一方で、実は、ぐっと身の内にこもるような不穏さや生きづらさのただよう内省的な作品も多くみられます。その系統のこれまでの作品では、影の濃さが立っていたものの、最近の連作には、「決意」のような行動力をともなって主体が動いていく一面があり、事態が動かない状況下でも前に進めていこうとする強さが光るようになりました。

またここでは説明しにくいのであまり言及しませんが、連作の中で輪郭のあざやかになる歌も多く、ぜひ連作で読んでいただければと思います。

 

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ありがとうございました。

 

以下更新予定です。

1月30日(水) 学生短歌会編第1回 佐々木遥さん

2月6日(水) ネット歌人編第3回 菊竹胡乃美さん

変更の可能性がありますので、Twitter@sanbashi_tankaをご確認ください。

 

短歌プラットフォーム「さんばし」 鈴木えて