歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第5回 なべとびすこさん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。

 

さて、今回は歌人リレー企画「つがの木」第5回、ゲストはなべとびすこさんです

過去の記事はこちらです。

第1回 御殿山みなみさん→のつちえこさん

第2回 のつちえこさん→菊竹胡乃美さん

第3回 菊竹胡乃美さん→大庭有旗さん

第4回 大庭有旗さん→なべとびすこさん

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自己紹介

こんにちは、なべとびすこです。

「やってみたいを、やってみよう」を合言葉に、短歌を中心になんでもやっています。結社等には所属しておらず、「鍋ラボ」というプロジェクトを自分で発足して活動しています。

 

「短歌カードゲーム ミソヒトサジ〈定食〉」

短歌カードゲーム ミソヒトサジ〈定食〉 | 鍋ラボ【短歌カードゲーム ミソヒトサジ公式通販】)という、誰でも短歌を作れるカードゲームを作成したり、短歌のワークショップや変なコンセプトの歌会などを開催したりと、幅広く活動しています。

私家版歌集「ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる」

https://nabelab00.thebase.in/items/11362711

も販売しています。

Twitterアカウント:@nabelab00

ブログ:http://nabelab00.hatenablog.com/

 

自選5首(全て『ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる』より)

ポケットのないドラえもんが現れてぼくを試すかのような顔つき

(今、何問目?)

 

(苦しいと言っちゃいけない苦しいと言っちゃいけない)とても「    」

(ペットボトルジェネレーション)

 

咲いているだけで咲き誇るだなんて僕らは呼吸じゃ生き誇れない

(十三月がはじまっている)

 

ふさわしい陽光にあなたは包まれて1月なのに夏の青空

(ふさわしい陽光)

 

常温の毛布と体温分けあって一人っきりで春を身籠る

(十三月がはじまっている)

 

 

 

今回ご紹介するのは、宇野なずきさんです。

宇野なずきさんは、

 

誰ひとりきみの代わりはいないけど上位互換が出回っている

[3/7追記:表記を修正しました。申し訳ございません。]

 

という短歌が昨年インターネット上でバズって話題になりました。もしかしたら、これをきっかけに短歌に興味を持った方も多いかもしれません。

 

ただ、宇野さんの短歌はまだまだステキなものがたくさんありますので、一部ご紹介させていただきます。

この歌も収録されている私家版歌集『最初からやり直してください』を中心に引かせていただきます。

 

なべとびすこが選ぶ宇野なずきさんの5首

 

 

深海に住めばあいつは光るだろう僕は両目がなくなるだろう

(亡霊)

 

不器用は免罪符にはならなくて自分だけ手数料を取られる

(虚無)

 

文法を間違えている僕たちの小説を書き直さないでくれ

(二度と咲かない線香花火)

 

これからは脇役だった僕たちのスピンオフ作品が始まる

(二度と咲かない線香花火)

 

以上4首、『最初からやり直してください』より。

 

僕の名前だけが流れるはずだったエンドロールがまだ終わらない

(連作50首 「否定する脳」より)

 

 

 

 

宇野なずきさんの短歌は、居心地の悪さのようなものを感じるものが多い。歌集『最初からやり直してください』は、

 

僕だけがインターネットの亡霊で他のみんなは居酒屋にいる

 

という歌ではじまる。

宇野さんの短歌には「僕」と「他のみんな」の間の断絶を感じるような歌が多い。

 

深海に住めばあいつは光るだろう僕は両目がなくなるだろう

 

光ることも、両目をなくすことも、どちらも深海に適応するための「進化」のはずだ。でもなんとなく「光る」ほうがヒーローっぽい感じがして、でも「僕」は「両目を失う」ほうだ、という確信がある。

 

不器用は免罪符にはならなくて自分だけ手数料を取られる

(虚無)

 

私も不器用だから思わず共感してしまう。不器用だと、いろんな場面で時間や手間がかかったり、無駄に焦ったり、人に頼らざるをえなくて、でも頼りたくなかったりと、いろいろ不便だ。その不便はすべて「手数料」で、手数料を取られるのは不器用な「僕」だけなのだ。

 

だからといって、この「僕」が絶望しているのかというと、そういうわけでもないんじゃないかとも思う。

 

 

 

 

文法を間違えている僕たちの小説を書き直さないでくれ

(二度と咲かない線香花火)

 

これからは脇役だった僕たちのスピンオフ作品が始まる

(二度と咲かない線香花火)

 

「僕」は「間違えている」ことを理解している。おそらくそのせいで、手数料を取られたり、自分だけなんとなくみんなと違う場所にいてしまったりしていて、それを理解はしている。

でも、それは「僕」にとっておそらく誇りでもあるように感じられる。

書き直そうとする「他のみんな」がいても、書き直したくないという確固たる気持ちがある。

また、「僕たち」という言葉が示すように、「僕」はずっと独りでいるわけではない。「僕たち」に含まれる人は、「他のみんな」とは異なる、シンパシーを感じる人間のことだろう。

 

 

僕の名前だけが流れるはずだったエンドロールがまだ終わらない

 

「僕の名前だけが流れるはず」ということは、この人生のキャストは自分だけだという思いがあったはずだ。でも「まだ終わらない」ということは、このエンドロールは思ったよりずっとずっと長いものだったのだろう。「僕」は本当はたくさんの人に囲まれていることも自覚している。

 

宇野さんの根本にある「誇り」や優しさのようなものがとても好きだ。歌集はKindle版で400円で読めるので、まだの方はぜひお読みください。

[3/7追記:Kindle版は500円ではなく400円になります。申し訳ございません。]

 

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ありがとうございました。

更新予定

3月13日(水) 学生短歌会編 石井大成さん

3月20日(水) ネット歌人編 宇野なずきさん

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