歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜 第3回  菊竹胡乃美さん

こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。
歌人リレー企画「つがの木」、今回は菊竹胡乃美さんをお迎えします。
 
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菊竹胡乃美(きくたけこのみ)と申します。
2015年の春、『NHK短歌の入選がきっかけで短歌を本格的に始めました。
2018年の秋、初めての歌集(手書き&挿絵付き)を販売しました。
九大短歌会に参加しています。
ちなみに九大短歌会はスカイプ活用の歌会もしているので、遠方の方でも参加しやすい環境です。
 
前回のつちえこさんに紹介してもらいましたように、短歌や詩や評・感想を作ったりツイキャス配信したり色々しています。手広くやりすぎてなにがなんだか分からなくなってきたので、TwitterやHPで情報をチェックして頂けたらうれしいです
 
 
 
 
自選5首
 
恋人の小指絡まる約束は柔い鎖のような感覚
(『NHK短歌』入選)
 
体調悪く生きていこうみんなそれぞれの場所で生きて腸まで届こう
(「ぼくたちは体調不良」『九大短歌第五号』)
 
生きるのが下手な女の子の楽園さサブカルマイナークソビッチ惑星
おまえにもおまえにもおまえにもおまえにもおまえにもおまえにものどちんこパンチ
(「生きろボキャブラリー」『九大短歌第七号』)
 
みんなみんな犯罪に走る春になり桜が咲くように自然に
(「カービィの瞳」『九大短歌第七号』)
 
 
 
 
私は九大短歌会で交流のあった大庭有旗(おおばゆうき)さんを紹介します。
 
 
菊竹胡乃美が選ぶ大庭有旗の5首
 
人間を殺したことで毒物に分類された花を育てる
「自殺率」コメンテーターの解説を分母で息をしながら聞いた
君の言う僕たちに僕はいますか道で死んでた猫はいますか
(「世界」『九大短歌第七号』)
 
生きている理由はなんだと問う僕に追いつかれぬよう走り続ける
あの人を嫌いになって僕達の間違え続ける日々が始まる
(「間違えて生きていこうよ」『九大短歌第七号』)
 
 
〈人間を殺したことで毒物に分類された花を育てる〉人間を殺したことで毒物に分類されるって、とても人間側の都合だなぁと思った。花的には身を守るために人を殺したのかもしれないし、花の効力の果てで殺してしまったのかもしれない。人間を殺すほどの力がある花。人間にとって害があるものを育てる主体は、この花を悪い存在だと思ってないように見える。毒物として扱われる花に心を寄せているような。
 
〈「自殺率」コメンテーターの解説を分母で息をしながら聞いた〉「分母」というのは生きている者たちの数。主体は「自殺率」について、他人事に捉えてないように感じた。下の句の表現があるからだろうか。「自殺率」という形でまとめられていることに対して、主体は生きている側に立ちながら本質を見ようとしているのか。「自殺率」という数字、「息をしながら」という生。下の句の表現は新鮮でただただ驚く。
 
〈君の言う僕たちに僕はいますか道で死んでた猫はいますか〉「僕たち」に「僕」がいてほしい「死んでた猫」もいてほしい。という主体の心の奥にある思いが、この”問い”に出ているように思う。繊細な問い。この主体はなにかしら”疎外感”を感じているのだろうか。「道で死んでた猫」は主体側に寄っているように感じた。
 
生きている理由はなんだと問う僕に追いつかれぬよう走り続ける〉少しでもスピードを緩めたら「生きている理由はなんだ」と自身に問うてしまう。「生きている理由」を漠然とふいに考えちゃうことってあるある。それって考え出したらきりがないというか、答えはすぐに出ない。だから走り続けてるのかもしれない。「問う」のも僕だし「走る」のも僕。僕の中にいろんな動きや思考がある。
 
〈あの人を嫌いになって僕達の間違え続ける日々が始まる〉この歌に絡めたエッセイを読んでより深く印象強く感じる歌。(短歌×エッセイという発信の形が新鮮で心に残る)あの人を嫌いになることがスイッチになり間違え続ける日々が始まる。「あの人」は主体にとって大きな存在だ。でも主体はひとりではない。「僕達」だ。個人的にはそこに救いを感じた。
                                                                                                                                                                                                                                          
 
歌を読むとき自分の中に落とすように読むんですが、大庭さんの歌はすとんと落ちてくるものが多いです。第一印象ですごく共感できる表現が多く、己の中に入ってくる。主体はこういう風に感じるんだ、こんな風に世界を見ているんだ。繊細な内面が淡々と伝わってくる。ただ主体自身はつかめない。主体の投げたボールは胸に飛んでくるけど、投げた主体はもういない。みたいな。
打ちっ放しのコンクリート、埃っぽさ、孤独感、少年、ナチュラルな残酷さ。大庭さんの歌は映画を見ているような気分にさせます。
 
 
大庭さんはnoteでエッセイを書いています。短歌に絡めたエッセイや、自身の体験や出会いのことなど。ひとつひとつのことに大庭さんは深く深く考える。そんな大庭さんの文章を読んでいるとどきどきします。大庭有旗の世界観に是非浸ってみてくださいね。
 
 
 
 
前回の紹介記事を読んでいると、自分の深層心理が見えたように思いました。自分の歌を振り返るきっかけを頂きありがとうございました。
 
歌人歌人を紹介するという新鮮なこの企画。いち読者としてこれからのリレーを楽しみにしています。

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ありがとうございました。

更新予定

2月20日(水) 大庭有旗さん