『先発全員短歌』一首評

3回のアウトに学ぶおしまいはワルツのように軽やかな幕

/キクハラショウゴ『先発全員短歌』

 

 野球をモチーフにした歌集のあとがきの後に載せられた、「おまけ」という位置づけの歌であるようだ。

 言葉の意味としては、野球におけるスリーアウトの三という数をワルツのリズムに重ね、そこに幕引きのイメージを重ねていると読める。ただ、この「学ぶ」がなかなかおもしろい。

まなぶ【学ぶ】①まねてする。ならって行う。

広辞苑 第六版』より

とあり、この意味で使われているようだ。この場合なにを行うかと言うと、この歌が置かれている位置から考えて、この歌集を幕引きすることである。ここの自己言及性がおもしろい。

 さらにおもしろいのは、それをワルツにも重ねている点である。三という数をワルツに重ねる発想として思い浮かぶのは、海堂尊の『ジーン・ワルツ』より「生命の世界では誰の遺伝子もみんなワルツを踊っているのだから。」というセリフだ。これは遺伝子の塩基対が3つでひとつのアミノ酸を指定することから来ているのだが、これと掲出歌を比較したとき、歌の方が快活なワルツであるような気がする(快活なワルツというものがあるのか詳しくないので分からないのだが)。「生命」「遺伝子」という神秘性を備えた言葉と並べられるとき、ワルツは祈りの舞踊のような空気を帯びる。それに対して、この歌では例えられているのがスリーアウトである。野球場の空気感は賑やかなものであり、試合終了ともなればそのざわめきは大きいものだろう。そのイメージを「軽やか」という言葉が補強して、よりワルツにイメージを帯びさせることに成功している。

 

評:鈴木えて