歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第9回 nu_koさん
こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。
さて、今回は歌人リレー企画「つがの木」ネット歌人編第9回です。nu_koさんにご寄稿いただきました。
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自己紹介
こんにちは、ぬこ(nu_ko)と申します。2016年頃から短歌をつくりはじめ、普段はTwitter(@nukothecat)やネット歌会で、たまにネットプリントなどの企画に参加させていただいています。原平和の名義で出すこともあります。関西在住です。
自選5首
右上のツキノワグマに気づかずにひとりでピースしてるのが俺
うちあげが叙々苑だって知ってたらベビーカステラなんか食うかよ
車庫入れに10分かかるきみのため私は動く車庫になりたい
何ひとつできてないのに夕焼けがうつくしすぎて申し訳ない
おれはもうはしゃげないから富士山が見えない側の席でねむるよ
(1.2.3 Twitterにて発表)(4.5 ネット歌会サイト「うたの日」にて発表)
私が紹介するのは未来短歌会所属の有村桔梗さんです。
未来短歌会での活動のほか、ネット歌会サイト「うたの日」やTwitterなどでも短歌を発表されていて、昨年、私家版『夢のあとにaprès un rêve』という歌集を出されました。
私の選ぶ、有村桔梗さんの5首
すべて歌集「夢のあとにaprès un rêve」より
この書架のちくま文庫の背表紙が陽にやはらかく褪せてゆく春
(本のある風景)
掃除機のコードのやうにしゆるしゆるとからだよ部屋のふとんに帰れ
(はるなつあきふゆ)
どうしてもどこに行つたか言はないが木彫りの熊がまた増えてゐる
(はるなつあきふゆ)
うかうかとまたも脱線してしまふきみの話に乗つて海まで
(消失点)
くらげにはくらげのなやみがあるのかも知れないけれど、くらげはよいね
(ハシビロコフ)
この書架のちくま文庫の背表紙が陽にやはらかく褪せてゆく春
陽が傾いてきて夕方になるちょっと前の光の感じ、レースのカーテンか透明ではないガラス窓越し、晴れた日の外からのふんわりした光、輪郭の濃くない陰、しばらく読んでいない文庫本。など、勝手に空想してしまった。
読んだ言葉から想う絵と、その絵から湧く印象がとても好きな一首です。
うまく言えません、言語化すると感じた印象とは違うものになってしまいそう、この歌は写真みたいだなと思った。
掃除機のコードのやうにしゆるしゆるとからだよ部屋のふとんに帰れ
主体はどこにいるんだろう。「掃除機」とあるので、家の中のどこかにいて、ふとんへ、という空想をしたのですが、もしかしてどこか外のすごく遠いところから「掃除機のコードのやうに」家の、ふとんへ、だったら…おもしろいな、とも思いました。
短歌を読むとき、あまり仮名遣いのことを気にしないのですが、「しゆるしゆる」って字の感じ、すごくないですか?時空がゆがんでいるような気持ちになります。
どうしてもどこに行つたか言はないが木彫りの熊がまた増えてゐる
変なシチュエーションだけど、日常には個人的な想いや理由がたくさんあって、他人に理解できることばかりではないし、日常に本当にあったことを詠んだのかも、と思った。
でもなんで木彫りの熊を集めちゃうんだろう。1個でよくないですか?☺️
うかうかとまたも脱線してしまふきみの話に乗つて海まで
会話の楽しいところって、話す前はお互いに想像してなかったところへ意図せず行き着いてしまったりすることで。きっとその人とそのタイミングで話をしていなかったらそこには着いていない、ていうことがたくさんあると思うのです。
歌の中になにもそんな説明はないんですけど、なぜか曇って荒れた海ではなくて、心地よい海を想像しました。海はいいな。
くらげにはくらげのなやみがあるのかも知れないけれど、くらげはよいね
なやみがあるのかも知れない、わからないけどそうかも知れない感じから「くらげはよいね」とふんわりむりやりまとめてしまった会話のようで好きです。きっとなやみがあるのかもしれないし、もしなくてもいいんじゃないか。ふんわり、この歌がくらげみたいです。
桔梗さんの短歌は、声でいうと大きな声ではないし、よく通る声でもないんですけど、でもなぜかよく聞こえる、そんなふうにいつも思います。
今回5首選ぶにあたってすごく悩みました。歌集「夢のあとにaprès un rêve」とてもすてきです。おすすめしたい歌集です。
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ありがとうございました。
更新予定
5月8日(水) 学生短歌会編 加賀塔子さん
5月15日(水) ネット歌人編 有村桔梗さん
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