歌人リレー企画「つがの木」〜ネット歌人編〜第8回 しま・しましまさん
こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。
さて、今回は歌人リレー企画「つがの木」ネット歌人編第8回です。しま・しましまさんにご寄稿いただきました。
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自己紹介
こんにちは、しま・しましまです。
2014年末から短歌を始めました。
初めて買った歌集は兵庫ユカさんの「七月の心臓」でした。
ネット歌会うたの日育ちで、チコ&トレースというユニットで「とらぬたぬきうどんでおなかをふくらます唯一の方法」というネットプリントを月一で出したり、ツイッターで短歌を流したり、私家版歌集「しあわせな迷子」をつくってみたりして遊んでいます。
未来短歌会にも所属しています。
自選5首
ある日オウムがきみそっくりに「ねえ」と言う いつかビールをこぼした窓に
踏み切れないぼくらの名前はぐらとぐら「痛いんじゃない?」「怖いんじゃない?」
ひっそりとこの世の端で生きているつもりのお腹を鳴らしてしまう
アンディは何度もウッディを手離しあなたは何度もそこで涙ぐむ
(『私家版 しあわせな迷子』)
眼鏡屋の眼鏡フレームあかるくてどれ試してもすっと冷たい
(『未来』2017年6月号)
わたしが紹介するのはnu_koさんです。
結社には所属せず、うたの日、うたよみんなど主にインターネットで活動されています。
nu_koさんの短歌は平明な表現で普遍的なシーンを描きながら、どこか、んんっと立ち止まらせる何かのあります。普段は意識しないでいる侘しさだったり幸せだったり、そういう繊細な感覚が何気ない感じにぽいと目の前に出されてしまうと、ちょっと胸がざわついてしまう。そんなところが魅力と思っています。
わたしの選ぶ、nu_koさんの5首
歯医者には5巻がなくて最後まで死んだ理由がわからなかった
大切な棒をなくして公園を宇宙に変える線が引けない
おれはもうはしゃげないから富士山が見えない側の席でねむるよ
(うたの日)
ああこれはとても大事なことだから鼻血のティッシュ抜いてから言う
(ツイッター)
ころされる夢はいい夢らしいよとぼくをころした人がいう朝
(うたの日)
歯医者には5巻がなくて最後まで死んだ理由がわからなかった
うたの日の「少年マンガ」という題に出されたうた。読者それぞれにそれぞれの経験に基づく歯医者観、歯医者の待合室観があるだろうけれど、歯医者で順番を待つシーンが鮮やかに浮かんで来るうたと思います。ずらっと揃った長編の少年マンガ。なぜかない5巻を飛ばして6巻7巻と読み進めていくなかで、一人の登場人物の死が飛ばされていて、「死んだ理由」が分らなくても物語は読めてしまうという。主体もそれ以降の別の場所でもその「死んだ理由」を求めたりしないで済んでいるのかも知れません。それはうっすらと怖い話なような気がするんです。
大切な棒をなくして公園を宇宙に変える線が引けない
うたの日の「棒」という題で出されたうた。子供時代の空想力を、その時に使ったアイテム「棒」に置き換えているようであり、いやもしかしたら「棒」が本当に大切なキーアイテムだったのかも知れないと思わせられます。きれいに整備された公園(このうたの場合は地面が土の児童公園でしょうか)には、もう木の棒なんていつでも落ちているわけではないのだから。
おれはもうはしゃげないから富士山が見えない側の席でねむるよ
うたの日の「側」の題詠。新幹線での一コマでしょうか。ほのぼのと侘しくてたまらないなと思うのだけど、それを上手く表現出来なくて申し訳ないです。
ああこれはとても大事なことだから鼻血のティッシュ抜いてから言う
このうたもほのぼのと侘しい。鼻にティッシュをつめて鼻血をとめている人というのがまず間抜けで、そんな間抜けな様子の人が、大事な話をするのに、おもむろにそのティッシュを抜くという行為がより間抜けな感じで侘しい。
ころされる夢はいい夢らしいよとぼくをころした人がいう朝
題詠が基本のうたの日に月一回ある「自由詠」の回に出されたもの。何気ない日常の、もしかしたら誰にでも経験のあるような事で、もしかしたら軽く笑って忘れられるようなシーンかも知れないけれど、背中がうっすらと寒くなるうたと思います。「ころされる」「ころした」というあえて柔らかく幼い感じのするひらがな表記で書かれた不穏なフレーズが、周到に用意された主体の「なんでもないこと」のポーズのように思える、と言ったら深読みしすぎなのかも知れませんが。
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ありがとうございました。
更新予定
4月24日(水) 学生短歌会編 淡島うるさん
5月1日(水) ネット歌人編 nu_koさん
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