歌人リレー企画「つがの木」〜学生短歌会編〜第1回 石井大成さん
こんにちは、短歌プラットフォーム「さんばし」です。
さて、いよいよ歌人リレー企画「つがの木」の学生短歌会編がスタートします。
第1回は石井大成さんにお願いしました。
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こんにちは。九大短歌会の石井大成(いしいだいな)です。
1998年生まれのおとめ座です。合唱もやってます。パートはトップテナー。
牧水・短歌甲子園OBOG会「みなと」にも所属しています。同人誌「ひとまる」の同人です。福岡歌会(仮)等、たくさんの歌会にお世話になっています。
言葉を感情にしたり、感情を言葉にしたりするのが楽しくて短歌をやっています。よろしくお願いします。
Mail:ishidai0922@gmail.com
自選5首(2019年に発表したものから)
羽織るという風の言葉を携えて、秋です。あなたに重なるすべて
(第5回大学短歌バトル予選歌/角川「短歌」2月号)
風を暮らしをあなたを祈る螺子を巻く最後に人が込める力よ
(『カノンロック』/書肆侃侃房「ねむらない樹vol.2」)
寒い。寒くて寒いみたいにしてしまう。あなたに寒いと気付かれてしまう
水と湯の言葉を分けるこの国で逢いたさはどこへゆくのだろうか
(『湯を焦がす』/ネットプリント「空箱vol.2」)
まんとひひ。あまり悩まず君が火と返す。真顔で。どきっとする
(第5回大学短歌バトル準決勝未発表歌 題詠「火」)
歌は主に機関紙「九大短歌」やネプリで発表しています。
「ひとまる」のwebサイトにて「temae- miso」という学生歌人の一首評を月連載していました。
https://hitomarubito.wixsite.com/tanka-hitomaru/project
単独ネプリ「空箱」をたまに刊行します。
また、今年からnoteで歌集評をやれたらいいなあと思っています。そのときはよろしくお願いします。
さて、僕が紹介するのは岡山大学短歌会所属の村上航さんです。
石井大成の選ぶ村上航の5首
背景に紺色が似合う君だけど意外と引いたら押してくる 好き
風呂と飯つまりセクシーアンドモグモグ略してセクモグ語尾には❤️
(『エンドロールの5番目より』/岡大短歌 六号)
今日こそはダブルメロメロバーガーで君をメロメロメロメロにする
(うたの日 題「ダブル」)
つやのない白さがあたまに膨らんでそれじゃあゆっくりたおれようかな
(ネットプリント『下げない眉毛』)
自分では立てないキリンのぬいぐるみ ねむたくないからヘドバンさせる
(第5回大学短歌バトル一回戦中堅 題詠「立」)
歌の中で誰かを想う、というのは簡単なようで難しい営みだと思っています。文芸である以上短歌は「ひとに見せる」ことを前提としていて、作者の作歌的目線が想う相手と読者とに分散されるからです。読者に伝えたいから読者を意識すると、想いが薄くなる。どの塩梅が好みかは読者によると思いますが、僕は何より想いを優先してほしい。短歌という舞台で、舞台の上に主体とあなたが立っているのだとしたら、主体にはあなただけを見ていてほしい。僕はそれを客席から見ているだけでいい。そういった意味で、村上航さんの歌の魅力は「読者を見ていない」点にあると言えます。
1・2首目は機関紙「岡大短歌」の連作より。この連作は主体の恋愛(おそらく失恋を含む)が読み込まれています(詳細は機関紙をお手にとってください)。
1首目。実は1首目と2首目は連作内の歌の順番的には逆なのですが、話の都合上この歌から話をさせていただきます。この歌、主体の想いとしては結句の「好き」に集約されるのでしょう。背景に紺色が似合う=落ち着いたイメージの君ではあるけど、意外と(恋の)駆け引きに対して積極的な反応を示してくれる。そういうギャップに惹かれた、そんな瞬間の歌だろうと思います。そうした読みを「意外と引いたら押してくる」という言い回しで導くポップさは間違いなく彼の歌の魅力でしょう。結句「好き」も1字空けることによりその(ときめきによる)語彙消失っぷりに勢いがかかり、読み手の目を引きます。
ただ僕が言及したいのは「似合う君だけど」という断定の強さです。「背景に紺色が似合う」というのは(伝わるけど)決して人口に膾炙した言い回しではありません。そこに一切の躊躇をせず、さらに「だけど」という逆接の、その論理のひっくり返しをやってのけるあたり。これが僕の、村上さんの歌にみる「読者を見ていない」感覚です。言葉を躊躇わなくていい。だって似合うんだから。そうしたある種のまっすぐさは出そうとしてもなかなか出せないものではないでしょうか。
2首目はよりシンプルに。言ってしまえばテンションの歌です。風呂と飯、という生活に欠かせない事象。それらに「セクシーアンドモグモグ」という言い換えを行う。風呂=セクシー、飯=モグモグという方程式がなんとも愛らしく映りました。この歌のポイントは、この言い換えには「なんの意味もない」ということ。ただ日々の営みをポップに言い換えて楽しそうな主体、を見る読者。連作単位で見たときにそれらが「あなたの存在」へのテンションの高さに繋がっている気がしました。下の句で言い換えは略称に、さらには❤️になる。この定型への詰め方が歌に一層のポップさを生んでいます。
この「セクモグ」にも言えることなのですが、オリジナルの言葉を歌に織り込むその躊躇のなさも彼の歌の魅力と言えるでしょう。3首目。「ダブルメロメロバーガー」なんてものはなくて、でも「オリジナルの言葉を使ってますよ」的なドヤ感もない。結果、そんなバーガーが本当にあるかのような、たしかにそんなバーガーがあれば君を「メロメロメロメロ」にできるだろうなあ、という歌の説得力を生んでいます。この歌のみに関していえば「メロメロメロメロ」という言葉の、そのコスパの悪さ(笑)。韻文なのに…というメタ的な楽しみ方をしてしまいました。
そんな彼の躊躇のなさがより詩的に、抽象に向いたのが4首目です。「つやのない白さ」のイメージを言葉で共有すること難しくて、(僕は質量のしっかりした無機質な物体を思い浮かべました)そうしたなにかが脳内で膨らむ。そこに身を任せる主体、という構図でしょうか。1首を通して無音で、でも自分の意思ではない何かが頭を占領していく。それに抗わない主体が「それじゃあ」という順接の勢いで表現されています。歌にするのが難しいモチーフ、背景にある感情をしっかり押し切る強さを持っている作者だと思います。
さて、最後は最近の村上さんの歌を1首。キリンのぬいぐるみにヘドバンを合わせたのは非常に優れた発見ではないでしょうか。ぬいぐるみのキリンならではの首の柔らかさが、人以上にヘドバンに活かされる。ここまでモチーフに必然性がある歌も珍しいような気がします。これらの行動の要因がねむたくないから」という主体のわがままにあるあたりが、そのことへの躊躇わなさが、彼の歌で非常に魅力に思うポイントです。また、「自分では立てない」「ヘドバン」というぬいぐるみへの緩やかな擬人法もぬいぐるみへの愛着をさりげなく表現したという点で効果的です。
村上航さんはこれからもまっすぐ前だけを見て、あるいは大切な「あなた」だけを見て歌を作り続けてくれるでしょう。それをいち読者として楽しみにしています。
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ありがとうございました。
更新予定
3月27日(水) 学生短歌会編 村上航さん
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